障害者雇用を通じて誰もが働きやすい職場作りを

 障害のある人を職場に受け入れる際には、「仕事を見える化・簡素化・効率化する」「根気よく分かりやすい指導をする」「適切な指示をタイミングよく出す」「頭ごなしの叱責ではなく有用な助言を行う」「成功体験を積ませ達成感を持たせる」「職場の人間関係を和やかにする」「同じ職場の仲間として迎え入れる」「悩み事を親身になって聞く」といったことが望まれます。

 このような対応は障害のある人だけでなく、就職したての職場に慣れない従業員などにとって望まれるものです。短時間労働のような本人の状況に合わせた労働時間の設定も、子育て中の従業員などにも求められるもので、障害のある人特有の問題ではありません。障害者雇用率を達成するためだけの障害者雇用ではなく、障害者雇用を通じて誰にとっても働きやすい職場作りに取組むことが望まれます。

 国連の専門機関であるILO(国際労働機関)は、国際労働基準の制定を通して世界の労働者の労働条件と生活水準の改善を目的として活動していますが、このILOではディーセント・ワーク(Decent Work)の推進を掲げています。ディーセント・ワークは「働きがいのある人間らしい仕事」と訳され、人々が働きながら生活する際に抱く願い(働く機会があり、持続可能な生計に足る収入が得られること。労働三権などの働く上での権利が確保され、職場で発言が行いやすく、それが認められること。家庭生活と職業生活が両立でき、安全な職場環境や雇用保険、医療・年金制度などのセーフティーネットが確保され、自己の鍛錬もできること。公正な扱い、男女平等な扱いを受けること。)が集大成されたものとされています。

 これらの願いが十分に実現されていないからこそディーセント・ワークの推進が提唱されているのですが、働く上で障害を抱えている人が職業に就き、安定した職業生活を継続できるよう支援することは、ディーセント・ワークの実現に向けた重要な取組みの一つに位置づけても良いでしょう。

どんな支援が求められるのか、なぜネットワークなのか

 障害者雇用の経験に乏しい企業が「障害者雇用を通じて誰にとっても働きやすい職場作りをして下さい」と言われて、そのような取組みがすぐにできるようであれば多くの支援機関や支援制度は不要でしょう。そのような取組みが難しいから、支援機関や制度があるわけです。支援機関には、企業がどのように障害者雇用に取組めば良いか分かりやすく説明する能力と、「仕事の見える化・簡素化・効率化」などを進めるための具体的なスキルが求められます。

 また、いくら「誰にとっても働きやすい職場」であったとしても、仕事内容や職場環境はさまざまです。障害の有無に関わらず、その人の希望や向き不向き、職場環境との相性を無視するわけにはいきません。障害のある人の興味関心・経験・特徴と、企業のニーズと現状(作業内容や職場環境)の双方をしっかり把握し、障害のある人と企業が出会えるように支援することも必要です。

 さらに、職業に関する興味関心がはっきりしない人に対しては、さまざまな情報や体験を提供することでその人のニーズ形成を支援することが求められますし、安定した職業生活の継続のためには、障害のある人が安心して生活できる地域作りも欠かせません。

 障害者雇用を通じた働きやすい職場作り、障害のある人と企業の出会い、障害のある人への適切な情報と体験の提供、障害のある人が安心して生活できる地域作り、どれ一つとっても、一人の支援者や一つの支援機関だけできることではありません。

 企業に対する支援だけでも、ハローワーク、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所など様々な機関の関わりが生じます。これらの機関がバラバラに企業を支援したのでは、効果的な支援は難しいでしょう。

 障害のある人に対する支援では、就労支援機関だけでなく、教育や医療など多領域の連携が求められますし、障害のある人が安心して生活できる地域作りでは、行政をはじめすべての関係者が市民を巻き込んで進めていく必要があります。

 目の前の業務で忙しく悩んでいるからこそ、効果的・効率的な支援が求められているからこそ、関係者がネットワークを形成して障害のある人や企業を支えることが求められるといえます。

 宮就ネットは、企業と支援機関のプラットホーム作り、自立支援協議会就労部会の未設置地域での設置促進、既に設置されている地域への活動強化の働きかけ、障害者雇用・就業支援に係る研修などを通じ、宮城県内の障害者雇用・就業支援のネットワークを構築し、障害者の雇用の促進と安定及び就業支援の質の向上をめざして活動します。

 宮城県の障害者雇用・就業支援に関わる方やそれらの情報を得たいと思っておられる方など多くの方が宮就ネット活動にご参加いただけると幸いです。

                                                            宮城就業支援ネットワーク代表  相澤 欽一